船上での食事のあれこれ

おのずと生まれる連帯感

前回に続き「さくら丸」(巡航見本市船)での想い出です。本船(「ほんせん」自分の乗っている船のこと)には船員をはじめ見本市事務局・監督官庁・出展各企業関係者を含めた約200人が乗り組んでおりました。

100日あまり同じ船内で文字通り寝食をともにするわけですから、おのずととある種の「連帯感」がつくり出されます。仕事柄、男性主体の集団でしたが、「船上茶会」(各寄港地で開催)担当者や医務室の看護師が数少ない女性乗員であり、我々から常に注目を浴びる存在でした。

食事での “しきたり”

毎日三度の食事は、必ず「メインダイニング」(大食堂)でとりましたが、「メインテーブル」の上座が船長の定席、その他5~6卓の上座に機関長・一等航海士・事務長・船医などの本船幹部がそれぞれ着席し、我々乗客代表約50名が卓ごとに彼らを囲むように座っての会食でした。

ところで、問題は乗客全員が順番に船長の隣席で食事をするしきたりがあったこと。食事中に船長からは船上生活の感想をはじめとした健康状態・内地での仕事内容・人生観・趣味趣向などさまざまな話題がふられ、初めはだいぶ緊張したものでしたが、航海も後半になるとコツもつかめ適当に対応できるようになりました。

まれに海が荒れると船酔いの乗客が続出、メインダイニングに空席が目立つことも度々ありましたが、どんなに船が揺れようとも船長だけは常にしっかりとして食事をしていた光景は目に焼き付いております。船長のこのようなパーフォーマンスに感服した私も何とか頑張ろうとしたものの、悪天候の下、「波打つスープ」にはとうてい我慢できず、途中で退席し、キャビンにやっとのことで逃げ帰ったこともありました。余談ながら船酔いは上陸すると不思議にケロリと治ってしまうことも体験しました。

1958年三井物産入社:星野 仁一