商社マン生活を通じて体得した信念

私に与えられた紙数もそろそろ尽きるようですので、今回は締めくくりの意味で「商社マン生活を通じて体得した信念」を順不同で列挙してみます。これまでの拙稿にて既に言及した事項などもあるかと思いますが、何卒ご容赦ください。

(1)人のせいにしないこと

自分自身を正当化するために、ついつい何でも他人のせいにしがちなもの。落ち度は率直に認め即刻謝るのがベストです。あなたの潔い態度に予期せざる「助っ人」が現れるかもしれません。私自身も「地獄で仏に会った」体験がありました。

(2)最後まで諦めないこと

あらゆる手を尽くして衆知を集め、万策を尽してもどうすることもできない難問題に直面することもありえます。対策をめぐって激しい議論の末、周囲の関係者は異口同音にギブアップを宣言し四散。ただし、実務責任者たるものとしては、何とかして解決の糸口を見いだそうと最後の最後まで諦めずに粘り抜く。最終的な結果にかかわらずこのようなあなたの真摯な態度はのちのち評価されると思います。

(3)人の話は最後まで聴くこと

「商談」は商売の要件。特に取引相手との話し合いには神経をつかうものです。超多忙な日常にかまかけて結論を急ぐあまり、相手の話を最後まで聴かずに自説のみを強調してしまうことが度々あります。我々が現役当時の通信手段は電話でのやり取りが主体でした。ワイワイとらちの明かない長電話などをしていると、上司から「電話をしている暇があったら先方へ伺い直接相手の目を見て話してくるべし」と注意をされたものでした。昨今はメールの発達と携帯電話の普及により、オフィスで卓上電話が鳴ることも稀のようです。

(4)「筆まめ」を心掛けること

現役の頃は、よく「手紙」を書かされました。電話や面談でのやり取りを先方へ必ず書面で確認しておくべしとの趣旨でした。メール万能な昨今、往時を回想しますと、ずいぶん余計な手間暇を費やしていたものだと実感します。しかしながら、おかげさまで「筆まめ」の習慣をごく自然に体得したようです。仕事の手紙はもちろん、友人、知人との文通も社会人になってからは目立って頻繁になったと思います。海外出張も度々ありましたので、その都度現地製のカラフルなポストカードに珍しい切手を貼り内地向けに投函しました。年賀状は最盛期には公私あわせて約1,000枚、暑中見舞いは的を絞り100枚程度、ほぼ毎年励行しました。「彼は三井物産に入社してから急に筆まめになったね」と学友達が噂していたほどでした。1枚の葉書で培った「対人関係」はキャプランで働く現在でも大いに役立っております。

1958年三井物産入社:星野 仁一