人材の正体

「個の力」の源泉とは

大手商社のキャリア採用サイトには、最大の資産は「人」・「資産」とはすなわち「人材」・人材は最大の経営資源・人材は大きな経営資産などと書かれています。何十兆円にもおよぶ商社のビジネスも各社の一人ひとりの担当者の「個の力」の積み重ねです。力を引き出すため各社それぞれに、いろいろな研修が行われますが、それだけでは商社マンは育ちません。個々の自己研鑽で作られます。

「個の力」の源泉は、まずは体でしょう。どれほど繁忙な時期でも、集中力を発揮して時間内に業務を遂行するためには、普段から自己を心身ともにフル稼働できる状態にしておかなければなりません。若い時期、私は会社の仲間とともに、ほぼ毎週、葉山のヨットハーバーにいました。海の風に吹かれながら準備体操や決められたドリルをこなし、フィッティング、チューニングを行い海に出ます。体だけでなく心の切り替えもできました。私の上司の一人は毎朝ジョギングしてから出社。もう一人は毎週末、自転車で好きなところを20~30キロ走っていました。

時間をマネージメントする能力を磨くことも大切です。私は上司に「用意のための準備をしろ」といわれていました。心がけたのは、その日に起こったことはその日に処理して、会社を出るときには、机の上は何もない状態にしておくこと。いつでも机の中に次の担当への引き継ぎ書を入れておくことです。次の日には何かトラブルが発生するか、緊急な出張が必要となるか、あるいは、転勤が命じられるかもしれませんから。こうすると激務のなかから時間と余裕が生まれます。

時間を作る知恵者たち

こうしてできた時間を使い、商社マンはさらなる研究を始めます。訪問客の減る冬の間にスカラ座に通いオペラ通になったイタリア駐在員、ロンドン出張が多く、シャーロックホームズの研究書を上梓するまでになった上司、メキシコの絵画に触発されて絵を始め、数々の展覧会で賞をとり、プロとしてすでに画伯と呼ばれている人。蝶の研究を行い新種を発見した同期。M社で相場商品のプロとなった同窓の友人は、現役時代から始めた俳句で号を持ち句集を出版しています。部下の一人がある日、そば打ちの師範役をやったと話していました。皆、大変忙しい仕事に関わっていた人たちです。時間を作る知恵者たちです。

商社の仕事は、チャレンジングな仕事です。多才な仲間に恵まれています。一生の仕事にして悔いはないと思っています。

三菱商事出身:村田 征彦