情報・調査機能

インターネット社会でも、“人” でしか得ることができないもの

日本貿易会のホームページに「商社が分かる」と題した商社機能の解説記事が出ています。その中で商取引機能の次に来るのが情報・調査機能。「広範多岐にわたる情報を収集・分析し、日々のビジネス活動に反映しています。」と定義づけられています。「グローバルに張り巡らされたネットワークを通じて、世界市場の情報収集・分析を行い、需要と供給をマッチングさせることにより、グローバルな市場開拓を進めている」のです。

商社の情報収集、分析の最先端は世界中に配置された商社の人材たちです。インターネットの時代、いながらにしてどんな情報も手に入れることができるように思えますが、ネットに出ていることから一歩踏み込んだ先の情報は人間を介してしか得ることはできません。

駐在員や事業投資先出向者として海外に在住している商社員は数千名。また、毎日、数百名の出張者がいずれかの航空便に搭乗中といわれます。商社は、これらを通じで世界の隅々の状況を、自分の目と耳でリアルタイムにつかむ能力を持っているわけです。最先端にいるものの前には、何千何万の情報が行き交い、無数の現状が通り過ぎていきます。現地の商社員にはこの中から意味のある事項をつかみ取る、センサーとしての機能が求められます。

普段の生活の中から、必要な情報のありかを探し出す

中東やアフリカの途上国の駐在員として、内乱や騒動をかいくぐってきたあるつわもの部長は、例えば、デパートの前で紳士服売り場が何階かを言い当てさせるなど、部下には目の前のものを課題にして推理を働かせる習慣を持つように指導していました。普段から仮説を立てる能力や、必要な情報のありかを探り出すセンス、予知する感を養うことが大切だと言っていました。自分でも時計なしに現在の時刻を推定したり、経過した時間を読む訓練を課したりしていました。その後、業務部門を担当する役員になったこの方の観察眼はこうやって養われたのだと身に染みて感じています。

欧州全域の部門取引を監督していた同僚は、出張する各国で必ず現地のタクシーの運転手やカフェのボーイなどに話しかけることを習慣にしていました。今、その地で話題になっていること、街一番の金持ちはだれで、どんな職業か、どの辺に住んでいるかなど。たいていは自慢げに話してくれるので、国民性や市場の現状や雰囲気などがつかめます。表だって入手できる情報を側面から確かめる手段を持つことで、取引や海外で生活する上でのリスクも回避できることがあるというのです。そのような駐在員や出張者が集まると、今、どこでどんなものがブームになっているか、何が足りないかなどの情報交換がはじまります。

私自身、当時からの習慣で、雑誌や広告などの写真を見ると、それがどの国のなんという街あるいは場所であるのかを推理せずにいられません。かなりの確率で言い当てることができます。海の色、太陽光線の方向、建築物の様式、人々の様子などなど、一枚の写真にもヒントは満載されています。

三菱商事出身:村田 征彦