バローロ・ボーイズ

2018年5月23日

皆さんは「バローロ・ボーイズ」をご存知ですか?現在はあまり使わなくなった表現ですが、イタリアワインの発展に大きな影響を与えた、とても重要な若年層の生産者たちです。

1970年代、バローロの伝統的な造り方はもう当時の市場にふさわしくないと思った彼らは、これまで聞いたこともない方法で新しいスタイルを開発し、ワイン革命を起こしました。それまでは、ネッビオーロ(赤ワイン用のブドウ品種)は長く発酵させて、大樽で熟成。その後何十年も瓶熟させるのが、バローロの基本的なスタイルでした。現在とは違い、多くの生産者は金銭的にもあまり余裕がなかったため高価な醸造機械も購入できず、結局はネゴシアンにブドウを売ることが多かったのです。

その状況の中で、エリオ・アルターレ、プルノット、パオロ・スカヴィーノなどの当時の若者(バローロ・ボーイズ)は「ボルドー・ブルゴーニュではワイン造りで多く稼いでいるのに、なぜバローロではそれができないのか?」と疑問を持ち、海外のプレミアムな生産地からインスピレーションを受け、根本的にワイン造りの考え方を変えることにしました。

グリーンハーベスト(*1)・バリック(*2)・短い発酵期間、これらの技術を生かして、もっと早飲みできるスタイルのバローロを造ろうと試みました。伝統派の生産者は驚愕し「あいつらは頭がおかしいんじゃないか??」と思いましたが、それとは裏腹に新しいスタイルのバローロはあっという間に世界中で大人気となったのです。ワイン誌からも消費者からも高評価を得て大成功を収め、続々と国際的なスタイルの新しいバローロが増えていきました。さらには「伝統的なバローロ=おいしくない」という妙な考え方も生まれ、一時期は新しいバローロじゃないとダメという評論家が多くなったほどです。

2000年後半にこの「伝統vs現代」の戦争は終わりました。現在の生産者は、基本的に伝統と現代との双方のバランスがとれたワイン造りを目指しています。イタリアワイン業界を発展させるためには、古い伝統に固執するだけでは足りません。海外で利用されている最新技術を調査し、常に新しいツールと技術を取り入れて改善していくことも大切です。長きに渡るバローロ戦争の教訓ですね。

(*1)グリーンハーベスト:摘房。ブドウの房を摘みとり、残された房に糖分などを集中させる。収量を減少させる目的のために、果房を未熟な状態で収穫すること(間引き)。
(*2)バリック:ワインを熟成させる小型の樽のこと。


著者紹介

Ettore Donadeo(エットレ・ドナデオ)

Ettore Donadeo(エットレ・ドナデオ)

アンコナ、マルケ州、イタリア生まれイタリア育ち。使用言語はイタリア語・英語・フランス語・関西弁。イタリアの大学で日本語学科を専攻。大学時代に1年間日本に交換留学した際に日本文化に魅せられ、卒業後2008年に再来日。日本とイタリアをつなぐ仕事がしたいと思い、ワイン業界へ転身。WSET Level2からワインの勉強を始め2017年にDiplomaを取得。2017年までワイン専門の酒屋で経験を積み、その後キャプランワインアカデミーに入社。

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