日本企業はどのような人材マネジメントを採用すべきか?--日本型人材マネジメントとグローバル人材マネジメントの違い

近年、グローバル企業を中心に、タレントマネジメントソリューションをはじめとしたHRテックの導入など新たな人材マネジメント施策を実行する企業が増えている。一方で日本企業の多くは、今なお従来からの日本型人材マネジメントが主流を占めている。グローバル企業と日本企業の人材マネジメントにはどのような違いがあるのか。日本型の良さを踏襲しながらグローバルにも通用する人材マネジメントの姿について、マーサージャパン株式会社の白井 正人氏に話を伺った。

プロフィール

マーサージャパン株式会社 執行役員 パートナー 組織・人事変革コンサルティング部門代表 白井 正人 氏

マーサージャパン株式会社
執行役員 パートナー
組織・人事変革コンサルティング部門代表

白井 正人 氏

組織・人事領域を中心に、マネジメントコンサルティングサービスを25年以上にわたり提供。組織・人材マネジメント戦略立案、組織・人事制度設計、役員報酬制度設計、要員計画、タレントマネジメント、選抜トレーニング、人材アセスメント、ガバナンス体制構築など様々なプロジェクトをリードするとともに、M&A、グローバル化支援にも多くの経験を持つ。

「人は辞めない」「人は辞める」という前提の違い

 この四半世紀の間、多くの日本企業がグローバル進出を加速させてきた。海外への生産拠点の移転、海外市場をターゲットにした販売拠点の設置、海外企業を巻き込んだM&A(合併・買収)は、グローバル化を進める日本企業にとって、もはや当たり前の事業戦略となっている。そうした中、「これまでのやり方が通用しない」と日本企業を悩ませる経営課題も浮き彫りになりつつある。そうした課題の一つが、人材マネジメントだ。

 多種多様な業界の日本企業を中心に、人事・組織領域のマネジメントコンサルティングサービスを25年以上にわたって提供している経験を持つ、マーサージャパン 執行役員の白井 正人氏は、日本企業がこれまで実施していた人材マネジメントと海外企業の人材マネジメントには、前提条件に大きな差があると語る。

 「戦前・戦後から高度経済成長期を通して日本企業が実践してきた日本型人材マネジメントと、海外企業が実践してきたグローバル人材マネジメントには、決定的な差があります。それは、日本型人材マネジメントが『人は辞めない』ことを前提にしているのに対し、グローバル人材マネジメントは『人は辞める』ことを前提しているという点です」

 白井氏は、「人は辞めない」「人は辞める」をそれぞれ前提とする人材マネジメントには、マネジメントのあり方にさまざまな違いがあると指摘する。

 「日本型人材マネジメントの場合、新卒一括採用と終身雇用という雇用特性、先輩・後輩の順序や同期同時の昇進昇格という序列感覚、年功・勤続年数による昇給という処遇方針があります。一方、グローバル型人材マネジメントの場合、新卒・中途を問わずビジネスニーズに基づいた採用という雇用特性、ビジネスへの貢献度に応じた序列感覚、役割・成果主義の処遇方針があります」

図:雇用特性、序列感覚、処遇方針の違い(マーサージャパン)

図:雇用特性、序列感覚、処遇方針の違い(マーサージャパン)

処遇とタレントマネジメント、人事権に大きな違い

 日本型人材マネジメントとグローバル人材マネジメントの違いは、企業の処遇政策に大きく影響してくる。

 「日本型人材マネジメントでは、人が辞めないので強固な企業コミュニティを築くことができます。長期間存続するコミュニティでは、内部公平性が最も重視されます。報酬は内部序列で決定し、他社の動向は関係ありません。それに対し、グローバル人材マネジメントでは、より良い条件、より良いキャリアを求めて人が辞めてしまうので、優秀な人材を確保するために外部競争力を重視せざるを得ません。内部の理論は二の次なのです」

 こうした処遇政策の違いは、報酬水準に明確に表れていると、白井氏は指摘する。

 「日本型人材マネジメントは、長期コミュニティを作ることで貢献度に対する人件費の抑制を可能にします。一方のグローバル人材マネジメントは、外部市場の動向に常に晒されるので、報酬水準は高くなる傾向にあります」

図:処遇政策と人材流動性(マーサージャパン)

図:処遇政策と人材流動性(マーサージャパン)

図:処遇政策と人材流動性(マーサージャパン)

 人が辞めない/辞めるによって影響が及ぶ範囲は、報酬水準に限ったものではない。人材の能力や資質、スキル、経験値などの情報を個別に管理し、戦略的に人材開発・育成を行うタレントマネジメント、あるいは適切な人材配置に責務を持つ人事権についても差が生じると白井氏は話す。

 「日本型人材マネジメントでは、各人の人材配置は会社主導で決まり、幅広い職種を経験させてキャリアを積ませます。後継者育成は、OJT(On-the-Job Training)により実務の中で人材開発・育成を行い、時間をかけて選別していきます。公平性を重視するために、人事部が中央で人事権を握っていることが一般的です。一方でグローバル人材マネジメントでは、キャリアの選択は個人の自由であり、各人はそれぞれ自分の市場価値を高めるために専門性を磨きます。サクセションマネジメントの一環として、特に優秀な将来のトップ候補に関しては、早い時期に選抜し計画的に幅広い経験を積ませることで、会社主導でキャリアを形成することがありますが、これは例外です。現場に人事権があり、優秀な人材の確保やリテインは現場主導で行われます」

図:キャリア、サクセション、人事権の違い(マーサージャパン)

図:キャリア、サクセション、人事権の違い(マーサージャパン)

日本企業でもタレントマネジメントがトレンドに

 このように驚くほど違いのある日本型人材マネジメントとグローバル人材マネジメントだが、「いずれかが優れているという単純な話ではない」と白井氏は言う。

 「日本型人材マネジメントには、人材を安定的に確保できるという利点があります。また、企業にとっては人件費を抑制できるというメリットもあります。しかしながら、事業と要員構成に不整合が生じたり、外部タレントを確保することが難しかったりする欠点があります。一方、グローバル人材マネジメントは、事業に合った人材・タレントを確保しやすく、パフォーマンスを追求する企業文化を醸成しやすいことが利点ですが、優秀な人材確保や教育コストは高くなり、コミュニティとしての一体感が低いというデメリットがあります。つまり、それぞれに長所短所があり、どちらが事業環境や自社の企業文化にフィットするかが重要になります」

図:日本型人材マネジメントとグローバル人材マネジメントの長所と短所(マーサージャパン)

図:日本型人材マネジメントとグローバル人材マネジメントの長所と短所(マーサージャパン)

 マーサージャパンが提供するコンサルティングサービスでも、人材マネジメント改革は各企業の実情に合わせて適材適所に実施している。ただし、日本国内と海外拠点とのギャップを取り除くために、グローバル人材マネジメントの手法を取り入れる企業が徐々に増えてきている。特にタレントマネジメントに関しては、そもそも人事管理にタレントマネジメントの考え方を取り入れていない日本企業が多く、グローバル人材マネジメントで実践されているタレントマネジメントを導入することが最近のトレンドになっているのだ。

日本とグローバル、両者のマネジメントの差を理解することが、成功のカギ

 では、日本型人材マネジメントからグローバル人材マネジメントへの移行を目指す企業は、どのような取り組みを行えばよいのだろうか。その一つの方法が、人材マネジメント基盤として「HR(Human Resource)クラウド」を導入することだ。

 「これまでも人材マネジメント改革を目指して人事管理基盤となるHRクラウドを導入する企業がありました。しかしITコンサルティングに強い会社が主導することにより、日本型人材マネジメントとグローバル人材マネジメントの差をよく理解せず、単にインプリメンテーションを実施するケースが少なくありませんでした。このため、せっかく導入したシステムが使われないという問題もしばしば発生しています」

 このようなシステム導入と運用実態の課題を解決するために、マーサージャパンとキャプランでは、提携関係をさらに強化。キャプランが取り扱うHRクラウド「SAP SuccessFactors」と、マーサージャパンの人材マネジメントコンサルティングサービスをワンストップでサポートする、タレントマネジメントソリューションの提供を開始した。ちなみにSAP SuccessFactorsは、世界6,220社以上のグローバル企業で利用されており、キャプランは日本企業に対しての豊富な導入実績を持っている。

 「マーサージャパンには、日本型人材マネジメントとグローバル人材マネジメントの本質的な差についての知見があり、コンサルティングサービスを通じて顧客企業の理解を深めるとともに、必要な移行プロセスのノウハウを持っています。一方のキャプランはSAP SuccessFactorsの豊富な導入実績があります。この両社が組むことにより、グローバル人材マネジメントを真に理解した上で、単なるシステムのインプリメントに留まらず、人事戦略の立案から人事制度設計、適切な人材配置、人材育成、SAP SuccessFactors を活用したタレントマネジメント構築・運用等のオペレーションまでワンストップで提供することが可能になります」

 グローバル競争が急速に進み、競争環境が多極化していく現在、日本企業には日本型人材マネジメントのメリットを踏襲しながらも、タレントマネジメントをはじめとするグローバル人材マネジメントを取り込むことが強く求められています。 キャプラン は、今回のマーサージャパンとの連携強化により、このような複雑化する経営課題に対して、新たな形のソリューションの実現に向けてサービス展開して参ります。

マーサージャパン株式会社

マーサーは、組織・人事、福利厚生、年金、資産運用分野におけるサービスを提供するグローバル・コンサルティング・ファームです。全世界約22,000名のスタッフが44カ国、約180都市の拠点をベースに、130カ国以上でクライアント企業のパートナーとして多様な課題に取り組み、最適なソリューションを総合的に提供しています。 日本においては、40年の豊富な実績とグローバル・ネットワークを活かし、あらゆる業種の企業・公共団体に対するサービス提供を行っています。組織変革、人事制度構築、福利厚生・退職給付制度構築、M&Aアドバイザリー・サービス、グローバル人材マネジメント基盤構築、給与データサービス、年金数理、資産運用に関するサポートなど、「人・組織」を基盤とした幅広いコンサルティング・サービスを提供しています。
マーサージャパン:https://www.mercer.co.jp

キャプラン株式会社

キャプランはパソナグループの人材総合サービス会社として、世界177カ国6,220社、ユーザー数4,800万人を有する世界No.1グローバルタレントマネジメントシステム『SuccessFactors』を活用した人事コンサルティング・サービスを提供。日本での導入支援実績においてSAP社より5年連続でアワードを受賞しています。 法人研修ではグローバル、マネジメント、コミュニケーションなど組織人材の課題に応じたカスタマイズ研修を、国内のみならずASEAN各地でも展開。また、国際取引、航空旅行、経理を中心とした専門人材の派遣・紹介サービス、世界標準のワイン資格『WSET』に則ったワイン教室の運営など、グローバル企業の多様化する人事課題に対して、採用、育成、活用のトータルソリューションサービスを提供しています。
キャプラン:https://www.caplan.jp/

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